2018/05/11(金) 20:36:53.16

占占占

果南「いや〜、まさか希が代表に選ばれるとはね〜」

希「たまたまやって」

果南「今年は私だと思ってたんだけどなあ」

にこ「あんた何回同じ話すんのよ…演舞の指導補佐やるんでしょーが。それで満足しなさいよ」

果南「そうだけどさー。全然違うじゃん」

にこ「ってか、そんなにやりたい? あれ」

果南「そりゃやりたいよ。目立つしさ。でもま、希ならいいや」

にこ「私は目立つからこそあんなのやりたくないけどね」

果南「にこは選ばれないよ。舞台に立っても遠くから見えないじゃん」アハハ

にこ「ぬぁんですって?! あんたなんかどう可愛く化粧したって男じゃないのよ!」ガタッ

果南「お、やるかー?」ガタッ

希「二人とも。喧嘩するなら静かにやらないかんよ」


  2018/05/11(金) 20:37:44.31

にこ「………」

果南「………ぷっ」

にこ「ふふっ、あはははっ」

希「どうしたん?」

果南「あはは…もう、相変わらず面白いなあ希は」

にこ「ふふ…喧嘩するなら静かに、ね。止めなさいっての」ペシ

希「え、ああ、そういうもの? 喧嘩って止めるべきもの?」

にこ「あんたは本さえ読めればいいんでしょうけどね」

果南「なんだっけ、いつも持ってるよね、その本。見せて」

希『棘人とネコ』スッ

果南「『とげじんとネコ』。面白いの?」

希「面白いっていうか、まあ。あと『しじん』やよ」

果南「うそ?! ずっと『とげじん』だと思ってた!」アハハ

にこ「この村にいて『棘人』が読めないのも、その本を読んだことないのも、あんたくらいのもんよ」

果南「そんなことないでしょー。はい」スッ

希「ありがとさん」


  2018/05/11(金) 20:38:19.77

にこ「ま、逆にその本がそこまで好きなのも、それはそれであんたくらいのもんでしょーけどね」

果南「も〜。少しは私たちのことも気にしてほしいもんだよ」

希「気にはしてるで? でも二人が本気でやり合わんこともわかってるしな」

にこ「そりゃそうよ。こいつに本気でやられたら一瞬でおじゃんだもの。このか弱いにこにーが」

果南「か弱いぃ? ぷぷーっ、『おにこ』がよく言うよ!」

にこ「あ! 果南! それ言うのやめなさいよね!!」


カタン カタン


にこ「………」

希「………」

果南「………誰かいるのかな?」

にこ「…さあ。覗いてみりゃ済む話でしょ」

希「え?! ええんかな」

にこ「自分の学舎でなに遠慮することがあんのよ。へーきよ」

果南「ほらほら、希も希も」オイデオイデ

希「ええ?! うん…」

占占占


  2018/05/11(金) 20:39:03.48

占占占

スゥ、と果南がふすまを引く。

通う学舎の、その廊下。

窓にもたれるように陽を浴びて、右の腕は気だるげにたらりと垂らされ。

物憂げな瞳はどこか虚空を見詰めるようで。

長い睫毛が伏せられ、そして、再び持ち上げられ、こちらをーー

スパンッ!


果南「…やば、目合ったかも」

にこ「目は合ったか知んないけど。こんなに勢いよく閉めちゃ、見てたのはバレたわね」

果南「まあ、別に悪いことしてたわけじゃないし…平気だよね」

にこ「へーきよ。それより、アレ…あの人よね? 希」

希「う、うん…せやね…」


ーーいくらか美人だけど、あれならにことは比べるまでもないわね。

ーーそうだね。髪は二人とも黒いけど、背も高くて美人で胸もある。にことは比べるまでもないね。

ーーあんたやっぱ喧嘩売ってんでしょォ?!

ーーお、やるか〜?


この村にいて、その名を、その存在を、知らない人はいない。

私たちなんか、同じ学舎に通っているのに。

それなのに、こんなにも近くでその姿を見たのは、初めてだというような気がした。

黒澤ダイヤ。

黒髪だって陽光に煌めくのだと、私はこのとき初めて知ったーー。

占占占


  2018/05/11(金) 20:39:41.92

占占占

黒澤邸。

村民にその名で呼ばれる、文字通り黒澤家の屋敷。

長大な母屋といくつもの離れを有し、村の祀り事や婚礼の場として活用されることも多い。

そんな黒澤邸の一室に、私はいた。


希「……………っ」

ダイヤ「…」

南「これからダイヤさんと希さんにやっていただくのは、かつてこの村で争っていた棘人と人が交わした融和の契りを忘れないための儀式です」


黒澤ダイヤと向かい合って座り、脇には南さん。

私の一つ下、十七歳になる娘を持つ母でありながら、祭事の執行人や立会人として名高い村の重鎮。

日頃は穏和でよくしてくれるかただけれど、責務を負う場にあっては雰囲気を一変させる。


  2018/05/11(金) 20:40:16.50

南「明日より一ヶ月間の稽古を経て、本番は村祭りの日です。よいですか?」

ダイヤ「…」コク

希「は、はい」コク


礼装に身を包み、厳格な面持ちと声音。

私も形だけそれらしい格好をしてはいるものの、『本物』に近い二人を前にしては、なんの助けにもならないようだ。


南「希さん。そう緊張しなくても結構ですよ。今日は顔合わせだけだから」ニコッ

希「はい…」

南「よろしい。では、誓いの握り手を」


にぎりて。

握り手?

ああ、握手のことか。


  2018/05/11(金) 20:40:51.14

この顔合わせから始まる儀の一連の流れなんて、毎年のように教わるのに。

自分がそれに関わるなんて…いや、中心になるなんて考えたこともなかったものだから、頭の中はほとんど真っ白だ。

試験の点だけ取れても、こんなところで不勉強を痛感させられる。


す、と。

白く細い手が差し出される。

黒澤ダイヤーー棘人の、右の手。

覚えず喉が鳴る。

ちらりと覗き見るも、瞳は伏せられ、一切の表情が窺えない。

それなら、怖がることはない。

南さんもいる。

なにも起こらない。

大丈夫、大丈夫。

握手を交わして、「明日からよろしく」と、それだけ。

いやに汗ばむ手のひらを裾にこすり付ける。


  2018/05/11(金) 20:41:26.48

骨が錆び付いたかのように重く軋む右手を持ち上げて、伸ばされた白い手をーー


す、と。


希「…え?」


音もなく、握るべき手が下げられ。

純白の足袋と、紅の裾。

ぽかんと見上げる私と、感情なく下される翠緑の瞳。

人差し指は口元のほくろをかしかしと撫でて。


南「ダイヤさん?! こら、戻りなさい!」


脇を抜ける足取りを追うこともできずに。

かすかな福寿草の香りが掻き消えた。

占占占
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  2018/05/11(金) 20:41:58.73

◇◇◇

穂乃果 海未ちゃん、どう?

海未 ええ、そうですね…全体の構想くらいはできました。後は細部の設定を詰めれば、なんとか形になると思います。

千歌 さっすが海未ちゃん! だね!

海未 脚本に起こすときには頼りにしていますよ、千歌。

千歌 チカは海未ちゃんほどの文才もないし、頭もよくないけど…でも、できるだけのお手伝いはするからね。

海未 ふふ…ありがとうございます。

ガラガラ

曜 お〜い、海未ちゃん!

海未 おや、曜。それにことりも。どうしましたか?

穂乃果 あ! もしかして!

曜 おっ、穂乃果ちゃんはやっぱり察しがいいな〜。

千歌 なになに? どしたの?

曜 じゃじゃーん! 衣装案ができました〜っ!

千歌、穂乃果、海未 おおーーーーっ!


10   2018/05/11(金) 20:42:33.40

曜 世界観に合いそうな感じで、ざっくりだけどね。

ことり 物語が固まってきたら、場面に応じて新しく描き起こすし、この衣装案も調整するからね。

曜 ひとまずはイメージってことで!

穂乃果 すごいすごい! さっすがことりちゃんたち!

千歌 うわー! どれもかわいー! あっ、チカこれ着たい!

海未 …うん、なるほど。この衣装で、私の中でもより具体的に世界観が固まりました。筆を進められそうです。

ことり ほんと? よかったあ。

穂乃果 ねえねえ海未ちゃん、穂乃果にはなにか手伝えることある?

海未 そうですね…ああ。それでは、穂乃果にしか頼めないことをお願いしましょう。

穂乃果 穂乃果にしかできないこと?! やるやるっ! なに?!

海未 ある意味では最も大切な役割ですからね、しっかりお願いしますよ。

穂乃果 うん!

◇◇◇


11   2018/05/11(金) 20:43:05.20

◆◆◆

『棘人とネコ』

『一人の少女がいました』

『少女は小さな村に住み、まじめで、よく働きます』

『ある日は野菜を売り歩き、ある日は牛小屋を掃除し、ある日は木を伐ります』

『少女は心根優しく、礼儀正しく振る舞います』

『目上の者を敬う心を持ち、幼い者に譲ることをためらわず、誰よりも早く起き、朝を報せる鐘を打ちます』

『しかし』

『村の中に、少女が売る野菜を買う者はいません』

『少女が牛小屋を掃除しようと、木を伐ろうと、礼を言う者はいません』

『一人もいません』

『なぜなら少女は、棘人だからです』

◆◆◆



12   2018/05/11(金) 20:43:37.67

c V V V

園田「海未さん」


園田「海未さん。稽古は、一時仕舞いです」

海未「…母上」


稽古の時に母が私を訪ねることは珍しい。


園田「南さんが見えています。客間まで来なさい」

海未「はい」


母はそれだけ告げ、稽古場を後にした。

南さんが?

家柄、訪ねてこられること自体はそう珍しいことではないけれど。

稽古を中断して私が同席すべき用件とは、果たして。

手拭いで汗を拭き、胴着の襟を正した。

c V V V


13   2018/05/11(金) 20:43:58.69

さよならに強くなれこの出会いに意味がある〜


14   2018/05/11(金) 20:44:09.51

c V V V

南「急にごめんなさい、海未ちゃん。お稽古の途中だって知ってたら、もう少し遅くに来たんだけど」

海未「いえ。それゆえ、このような格好で失礼いたします」

園田「着替えてこなかったのですか、海未さん」

海未「…その時間を頂いてもよかったのですか」


有無を言わせぬ剣幕に従ったのだ、とは。

まさか言うわけにいかない。

けれど南さんの表情を窺うに、どうやらその辺りは汲んでくださっているようだ。

問答はやめにして、母の隣に腰を下ろす。


園田「今日はこの子を、とのことですが」

南「ええ。少しね、話をしておこうと思って……」


15   2018/05/11(金) 20:44:47.70

園田「…なにか?」


どこか落ち着かない様子で障子を振り返る南さんに、母が訊ねる。

そこで、私ははたと気付く。

脇に敷かれたもう二つの座布団に。


南「勝手ながら、彼女も呼んでいるのよ」

園田「彼女?」

南「そろそろ来ると思うんだけど」


と。

その言葉を待っていたかのように、障子の向こうが慌ただしくなる。

ああ、この足音は。


??「もー、付き添わなくていいってばー」ドタドタ

使用人「そういうわけにはまいりません。あくまでも客人なのですから」

??「堅っ苦しいわねー、相変わらず。そんなんだからこの村はいつまで経っても縮こまったまんまなのよ」ドタドタ

使用人「それは奥様にお申し付けください」

??「はいはい、ここでしょ! もういいわよ、送り届けてくれてアリガト!」ドタドタ

使用人「奥様。失礼いたします」

園田「構いませんよ」
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16   2018/05/11(金) 20:45:26.11

スパーーーン、と。

不躾なまでの勢いでひらかれた障子に、しかし驚く者はこの場にいない。

役目を奪われたのであろう使用の者すら、慣れた様子で控えている。


鞠莉「ハァイ! 園田さん、南さん。遅くなったわね。…あら珍しい、海未も一緒なのね!」

ツバサ「…」


現れたのは、案の定。

小原鞠莉と、その付き人綺羅ツバサの二名。

園田の家で、また園田家当主を前に、こんな風に振る舞うことができるのは、この村においては彼女くらいのものだ。


園田「いつまで桟を踏んでいるつもりですか。早くお入りなさい」

c V V V


17   2018/05/11(金) 20:46:07.28

c V V V

南「来てくれないかと思ったわ」

鞠莉「まさか! 私まで来られないようじゃ、代理に立ってる意味が nothing じゃない」

南「ふふ…それもそうね」

園田「歓談は後ほど。人が揃ったのなら、先に用件を」

鞠莉「海未、久し振りね! いくつになったの?」

海未「あ、えっと、十七です……ご自分の年齢からわかるでしょう」

鞠莉「もー。アイサツよ、アイサツ! 母親に似てカチンコチンねー」

海未「は、はは…」チラッ

園田「………」

海未(勘弁してください…)

園田「…あいさつは終わりましたか。それなら早く話を」

鞠莉「ほーら、貴女もあいさつくらいなさい!」バシバシ

ツバサ「…綺羅ツバサです」ペコ

南「ツバサちゃん。鞠莉に似て、美人に育ったわね」

ツバサ「……」// プイッ

鞠莉「毎日おんなじもの食べておんなじ生活してるからね! この子はマリィと言っても過言じゃないわ!」

海未(それは過言でしょう)

鞠莉「愛想のない子で悪いわね。人見知りが治らなくて」

南「大丈夫よ。昔からの馴染みですもの。ねっ」

ツバサ「…」コク


18   2018/05/11(金) 20:46:40.88

園田「………ハァ」

海未「!」ビクッ

海未「よ、よければそろそろお話を伺いたいのですが…」

南「ああ、そうね。遊びにきたわけじゃなかったわ。若い子たちに囲まれると、どうしてもね」

園田「……鞠莉さんは、当主としていらしたのですね」

鞠莉「そういう風に呼ばれたわね」

海未(小原家当主と、園田家当主を)

海未(私が同席させられた理由は置くとして…それならば)


決して小さくない四面の卓に着き、しかし、囲むは三方のみ。

空いたひと席は、埋まらないのだろう。


南「今年の『棘刀式(しとうしき)』について、話をしにきたの」

c V V V


19   2018/05/11(金) 20:47:23.34

>< >< ><

ガラリ


南「ダイヤさん」

ダイヤ「一声もなしに開けるとは、些か無礼が過ぎませんか」

南「今日も稽古に来なかったわね」

ダイヤ「腹痛がひどくて。行けませんでしたわ」

南「嘘を言いなさい!」

ダイヤ「…人の家でよくもそんな大声を、」

南「あなたには責任があるんですよ! 棘刀式がこの村にとってどれほど大切なものであるか、知らないわけじゃないでしょう!」

ダイヤ「わかりませんわ」

南「…なにがです」

ダイヤ「それほどまでに重きとして扱うこの儀式に、果たしてどれだけの意味があるのか。私にはわかりませんわ」

南「意味…ですって?」

ダイヤ「棘人と、人が、融和を? ふふ…たいそうな絵空事に躍起になるのですね」

南「ダイヤさん!!」

ダイヤ「………」

南「黒澤家の長女でありながら、あなたがそんなことを言うんじゃありません!」

ダイヤ「お小言は結構ですわ。お稽古もね。あの程度、今さら稽古をするまでもない」


スッ スタスタスタ…


南「ダイヤさん! …もうっ!」

>< >< ><


20   2018/05/11(金) 20:48:07.75

◇◇◇

女生徒 ねえ、なんか下の子が呼んでるよ。

希 ほんま? ありがと。

トコトコ

希 ね。

穂乃果 うわっ!

希 うちに用があるのって、あなた?

穂乃果 あ…は、はいっ。二年生の高坂穂乃果っていいます!

希 穂乃果ちゃんね。どうしたの?

穂乃果 あの…お願い事があって来たんです。

希 ああ。わざわざ来てくれたん? あ、それとも投書用の紙が切れとったんかな。

穂乃果 あ、そうじゃなくて。生徒会に用があるんじゃないんです。

希 ほ? そうなん?

穂乃果 はい。希先輩に…希先輩たちに、お願い事があって。

希 うちら…?

穂乃果 えっと…希先輩と、果南先輩と、にこ先輩と、鞠莉先輩と、ツバサ先輩、それに絵里先輩と、聖良先輩と、あんじゅ先輩、英玲奈先輩と、あと…ダイヤ先輩に。

希 ……? 話を聞くくらいならええけど…どうしたん?

穂乃果 私にーー


穂乃果 私たちに、力を貸してもらえませんか!

◇◇◇


21   2018/05/11(金) 20:48:46.10

◆◆◆

『ある日、少女が森を歩いていると、小さな泣き声が聞こえてきました』

『声のするほうへ行くと、ひざを擦りむいた女の子がいました』

『どうやら、木の根につまずいたようです』

『たいへん。少女は駆け寄ります』

『だいじょうぶ? 女の子に差し伸べる手』

『さわらないで!』

『ぱしり、とその手は弾かれました』

『でも、けがをしてるから。村まで一緒に行きましょう』

『ひとりでだいじょうぶ。だから、さわらないで』

『…ごめんね。少女はその場を立ち去りました』

『村の入り口で、少女は叫びます』

『たいへん、たいへん。森で女の子がけがをしているわ』

『やがて、女の子の元には村の大人たちが駆け付けました』

『痛かったろう。心細かったろう』

『よく頑張ったね』

『女の子は笑顔を浮かべて言いました』

『ママの手は、あったかいね』

◆◆◆


22   2018/05/11(金) 20:49:47.25

***

花陽「花丸ちゃん、帰ろ〜」

花丸「ずら」


テクテク…


花丸「あ。ちょうちんが並んでる」

花陽「ほんとだあ。来月はお祭りだもんね」

花丸「今年のお祭りは盛大にやるんだろうね」

花陽「村のお米がいっぱい食べられるといいなあ」

花丸「まるはなんでもいいからいっぱい食べられるといいなあ。いつもより人も多くなるだろうからね…頑張って屋台を制覇するずら!」

花陽「………」

花丸「花陽ちゃん? どうかしたずら?」

花陽「人が多いってことは、…その…」ブルブル

花丸「大丈夫だよ、花陽ちゃん」ポン

花陽「花丸ちゃん…」

花丸「こっちから失礼なことをしたりしない限り、棘人さんだってなにもしないよ」

花陽「ほ、ほんと?」

花丸「ほんとだよ。ほら、棘人さんの中にも梨子さんや凛ちゃんみたいな人だっているから。みんながみんな怖いわけじゃないずら」

花陽「う、うん…そうだよね…」ホッ

ことり「え〜? そうかな〜」ヒョコッ

花陽「ぴゃっ?!」ビクッ

花丸「…ことりちゃん」
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23   2018/05/11(金) 20:50:10.95

連用形止めが多すぎる
多用するもんじゃない


24   2018/05/11(金) 20:50:37.12

ことり「こーんにーちはっ。仲良く帰り道? いいなあ、ことりもご一緒してもいいかな?」

花陽「………」カタカタ

花丸「……ごめんなさい。遠慮してほしいずら」

ことり「えー、ひどいなあ。ことりは棘人さんじゃないよぉ?」

花丸「棘人さんのほうがマシだよ」

ことり「あはははっ、言うじゃない。ふうん、そっかあ…残念」

花丸「行こ、花陽ちゃん」グイ

ことり「ばいば〜い、花陽ちゃあん」

花陽「あ、さ、さようなら…」

ことり「棘人さんってば、昔は花陽ちゃんみたいな可愛いコを捕まえて食べちゃってたんだってねえ〜。気を付けてね〜」

花陽「ぴゃあああっ?! た、食べられちゃうの?!」

花丸「花陽ちゃん! いつもの意地悪ずら! 嘘だから大丈夫だよ! …もうまるたちに話し掛けないで!」スタタタ…

ことり「うふふ…嫌われてるなあ…」

***


25   2018/05/11(金) 20:51:33.87

占占占

南「希さん。ここで壇上へ」

希「はい」


木剣を握る手に力が入る。

壇の中央には黒澤ダイヤ。

その周り、彼女を囲うように棘人と人が半円を為す。

一歩、また一歩。

やがて、黒澤ダイヤの正面へ。


すう…

木剣を構える。

同じくして、黒澤ダイヤが両手を挙げる。

顔を隠すように拡げられた両の手。


南「ダイヤさん」


南さんの短い声。

そして、拡げられた黒澤ダイヤの両手が小刻みに震え。

ぐぐぐーー……と、手の甲から幾本もの『トゲ』が生える。


26   2018/05/11(金) 20:52:14.25

南「希さん」


次いで、私の名を。

私の役目は、そのトゲを斬り落とすこと。

仮面を砕き、皮を引き剥ぐかのように。

棘人が棘人たるための証をーー尊厳を。


南「安心なさい。練習用の剣で傷は付きません」

希「…はい」


今はね。

でも、つまり、本番ではーー

その先を思考しようとした瞬間、


「やめて!!」


大きな声によってそれは遮られた。

占占占


27   2018/05/11(金) 20:52:58.13

@@@

果南「ワン ツー スリー フォッ ファーイ シックス セブン エイッ」パンパン

南「右付きの二人! 遅れてますよ!」


遠巻きに眺める棘刀式の演舞練習。

その中央に舞うのは、大好きな人。

練習用の簡素な格好に身を包んでさえ、美しく映える。

長く繊細な黒髪を振り乱し、一切の表情を湛えることなく。

黙々と、黙々と、長年研鑽してきた舞を魅せる。

周りの何人が汗を弾き、息を乱し、くず折れようとも。

歩くように、跳ねるように。

それが他の誰でもない、彼女自身の舞であるかのごとく。

お姉ちゃんは、ただただ、舞う。

けれど、現実は非情なもので。


理亞「うわー、やってるやってる」


いやらしい声の観客が訪れる。


28   2018/05/11(金) 20:53:35.28

理亞「すご。あれみんな棘人なんでしょ」

英玲奈「そうだな。だが後ろの六人は人だぞ」

理亞「げ…あんな近くで踊るの? 絶対危ないじゃん」

英玲奈「ふふ…そうだろう。棘人のトゲで怪我人が出るようなことになれば、たいした問題だ。よくもあんな儀式をこの時代にまで続けるものだよ」

理亞「あ! あれ今年の代表じゃん」

英玲奈「東條希だな。ここからが見ものだ」

理亞「知ってる! 棘人斬るんでしょ! よし…録っちゃお」


そう言って鹿角理亞が取り出したのは、ビデオカメラ。

その姿に、私は飲み込み切れない感情が込み上げてくるのを感じた。

くだらない好奇心で、私たちの決意をーー


ルビィ「やめて!!」

@@@


29   2018/05/11(金) 20:53:58.39

なーちゃんは希ちゃんと同じくらい巨乳だよ
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30   2018/05/11(金) 20:54:21.23

占占占

ルビィ「やめて!!」


私も、南さんも、果南も。

傍付きの棘人も、人も。

誰もがその声に振り返った。

けれど、最も強く反応したのは黒澤ダイヤだった。


ダイヤ「ルビィ?!」


言うが早いか駆け出したその後を、一瞬遅れて追う。

視線を先にやり、得心する。

あれは確か…聖良さんの妹と、統堂さん。

少し身を引いて立つ統堂さんと打って変わって、聖良さんの妹と取っ組み合っているのは、黒澤ダイヤの妹。

黒澤ルビィちゃんだ。

学舎と黒澤邸の外ではほとんど姉に付きっきりで、誰かと話す姿さえ見たことがない。

それが、取っ組み合いを。


31   2018/05/11(金) 20:54:21.98

知らないキャラしかいない


32   2018/05/11(金) 20:55:18.72

理亞「放して! 放せって言ってるの!」

ルビィ「放さない! あなたこそこれをしまって!」

理亞「あんたが掴んでるからしまえもしないっての! 放しなさいよ!」

ダイヤ「ルビィ! なにをやっているのですか!」

ルビィ「お、おねいちゃ…」

理亞「黒澤ダイヤ! このバカをどうにかしてよ!」

ルビィ「おねいちゃあに乱暴な口きかないで!」

ダイヤ「ルビィ、よしなさい! その子の手を放して!」

ルビィ「い…嫌あっ! あなたが謝るまで放さない!」

理亞「誰が! なにを! 謝る必要があるのよ!」

ダイヤ「あ、謝る…?」

希「ぼさっとしとかんと、止めるのが先やん!」


会話をへたに聞いてしまったがために混乱を共有した黒澤ダイヤに代わり、もつれ合う二人の元へと飛び込む。


33   2018/05/11(金) 20:56:08.75

希「喧嘩はあかんって! なにがあったか知らんけど、そういうときは話し合うのが先よ!」


それより、どうしてこの人は…統堂さんは、こんなに近くにいて眺めているだけなの。

と、余計なことに思考を割いていたのがよくなかった。

私は気付いていなかった。

忘れていた。

黒澤ルビィが棘人であることを。


ダイヤ「…っ、ルビィ! あなたトゲが…」

希「とにかくまず落ち着いてーーーーっ、痛っつぁあ!」


手の甲に鋭い痛みが走って。

視界に赤色が舞い踊った。

占占占


34   2018/05/11(金) 20:56:56.61

◇◇◇

善子 ねえ。私のとこにも来たんだけど…あのセンパイ。

真姫 そう…これで何人目かしら。

花陽 凛ちゃんも理亞ちゃんも花丸ちゃんもだから…六人かな。

真姫 ふーっ…一体なんのつもりかしらね。聞いた話じゃ、三年生にも声を掛けて回ってるらしいじゃない。

善子 花陽。演劇ってこんなに人数いるものなの?

花陽 どうなんだろう…私も演劇って観たこともやったこともないから…

真姫 そこよ、そこ。人数集めるのはまだいいとして、なんで揃いも揃って未経験者をこんなに集めてんのって話よ。素人ばっかり集まったってどうなるもんでもないでしょうに。

善子 三年生には何人か経験者いるらしいわよ。

真姫 いたって一緒よ。私はやらないわ。イミワカンナイもの。

花陽 で、でも…ちょっと楽しそうかな…なんて。

善子 あら。花陽は乗り気なのね。


35   2018/05/11(金) 20:57:30.79

花陽 ちょびっとだけだよ! 花陽は舞台に立つのなんて、考えただけでも耐えられないし…緊張しちゃう…

真姫 あなた可愛いし声も綺麗なんだから、舞台映えはするんじゃないの? 知らないけど。

花陽 そ、それを言うなら真姫ちゃんこそ。美人だし歌も上手だし、向いてると思うけどなあ。

真姫 そ…そりゃ、私に向いてないことなんか一つもないけど!

善子 キャラも立ってるしね。

真姫 今ばかにした?

善子 知らなーい。ま、花陽だって真姫だって、別に他にやりたいことがあって時間がないっていうんじゃないでしょ? だったら試しにやってみてもいいんじゃないの?

真姫 ……善子がそこまで言うならいいけど、

花陽 ……ね。

善子 は? なに?

真姫、花陽 もちろん、善子もやるのよ。/善子ちゃんもやるんだよ。

◇◇◇


36   2018/05/11(金) 20:58:08.04

◆◆◆

『棘人。』

『感情が昂ると体表からトゲが生える体質を持つ亜人。』

『危険な存在であるとしてかつて人と争った彼らは、やがて淘汰されていきました』

『ただ一人の生き残りである、少女を除いて』

『棘人の血を濃く受け継いだ少女は、幼い頃に一度だけ、両親を亡くしたときに全身からトゲを生やしました』

『心優しい少女は、ただ一度きりのその姿を村人に見咎められ、以来、一人ぼっちで生きています』

『伸ばす手は払われます』

『寒い夜に身を寄せ合える相手はいません』

『喜びに抱擁を交わしたことはありません』

『少女は今日も』

『一人ぼっちで生きていきます』

◆◆◆
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37   2018/05/11(金) 20:58:39.67

占占占

『少女は今日も一人ぼっちで生きています』


何度も読んだ一文に、改めて目を落とす。

大樹の影、吹き抜ける風。

広場はしんと静まり返り、見渡す限りよそよそしさがそこらじゅうに転がっている。


希「はあ…」

果南「ため息なんかつくと幸せが逃げるぞ〜ってね」

希「果南」

果南「なんで本なんか読んでるのさ。早く帰って治療しなよ」

希「…今ウチがこの場を去るわけにはいかんよ」


38   2018/05/11(金) 20:59:15.55

棘人。

人。

立場がある者。

原因を作った者。

なにもできなかった者。

そして、最渦中に位置する私。

この場にある全ての視線が自分に注がれている。

立ち居振舞いを誤れば、それが棘人と人との隔絶に決定打となってしまうことは想像にたやすい。


果南「だからって、希になにができるのさ」


ぶっきらぼうに言いながら、ごそごそとポケットを探る。


果南「…酢こんぶしかなかった。ごめん」

希「ええよ。たいした傷やないし」


差し出された酢こんぶを丁寧に押し返す。


39   2018/05/11(金) 20:59:53.52

けれど、果南の言う通りだ。

ここで棘人の存在を非難するなんて選択肢はまさかないにしても、それなら、どうすればいい。

ルビィちゃんのもとへ行き、「気にしてないよ」と笑えばいい?

聖良さんの妹ちゃんを連れて、「ごめんなさい」と謝ればいい?

なにをしたって誰かを傷付けることになりはしないか。

私に、今、なにができるというーー

草の根を踏む音。

二つ。


ダイヤ「東條さん」

希「…黒澤さん。ルビィちゃん」

ダイヤ「お使いください」


絆創膏。


希「あ…ありがとう」

ダイヤ「では」

希「………」


凛と去りゆく黒髪と、時折なにか言いたげに振り返るツインテール。

それだけ。

たったそれだけ。


40   2018/05/11(金) 21:00:25.94

たったそれだけのことに、一体この人は、どれだけの勇気を振り絞ってくれたというのだろうーー


希「黒澤さん!」

ダイヤ「はい」

希「ありがとう」

ダイヤ「…はい」

希「明日からも、よろしく。ルビィちゃんも、また明日ね」


言えたのは、それだけだった。

なるほど。

勇気とは、こういう風に使うんだ。

最善だったかはわからない。

けれど、決して誤りはしなかったはずだ。

今は、それでいい。

振り向くと、呆けた様子の幼馴染み。


41   2018/05/11(金) 21:01:07.94

果南「希」

希「ん。ウチ、間違わんかったよな」

果南「黒澤…さん、が」

希「え?」

ダイヤ「東條さん」

希「え? あれ? 黒澤さん。ごめん、ウチなんか…」

ダイヤ「ダイヤです」

希「え?」

ダイヤ「この子はルビィ」

ルビィ「…」ペコ

ダイヤ「私たちはどちらも『黒澤』ですから」

希「あ、ああ………ああ!」

希「ダイヤ…ちゃん」

ダイヤ「ふふ。希さん」

ダイヤ『棘人とネコ』スッ

希「あ…その本」

ダイヤ「私も、よく読むのです」

希「あ、えっとね、ウチも」ゴソゴソ

希『棘人とネコ』サッ

ダイヤ「この本は…とても、大切な読み物です」

希「……っ!」


42   2018/05/11(金) 21:01:40.07

優しく、優しく。

『棘人とネコ』に瞳を落とす姿は、決して恐れるべきものには見えなくて。

私は。


希「なあ」

ダイヤ「はい」

希「ウチのと、交換しいひん?」

ダイヤ「…ぜひ」


差し出し、差し出され。

本を挟んではいたけれど。

私たちは確かに、お互いの手を取った。

占占占


43   2018/05/11(金) 21:02:25.70

***

善子「……」コソコソ ジイッ

あんじゅ(また見てる…無視無視)

あんじゅ「…あ」

あんじゅ「凛ちゃあん♡」トトト

凛「にゃ! あんじゅちゃん。こんにちは〜」

あんじゅ「こんにちは。今日もネコみたいで可愛いわね」

善子「!」ギリ…

凛「あんじゅちゃんもかわいいよ!」

あんじゅ「まあ、嬉しい」クス

あんじゅ「今日は学舎どうだった? 楽しかった?」

凛「うん、楽しかったー! でもね、やっぱりみんな凛とお話ししてくれないの…」

あんじゅ「あら〜…みんなって、花陽ちゃんとか?」

凛「そう。花陽ちゃんね、凛のこと怖いみたいなの。凛なんにもしないのにな〜」

あんじゅ「よしよし…それでもいつも元気で、偉いわね」ナデ

凛「♡」ゴロゴロ

善子「………っ!!」ギリギリ…

あんじゅ「いつかみんなと仲良くできるといいわねえ」


あんじゅ「たとえ表面だけでも…ねえ」

***
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44   2018/05/11(金) 21:03:00.81

***

テクテク


善子「!」ハッ

善子(あんじゅさんだ!) ササッ コソコソ

善子(今日も一人…格好いい。孤高にして至高の存在ね) フフ

善子(どこか行くのかな) ジイッ…


ーーあんじゅちゃん。こんにちは〜。

ーーこんにちは。今日もネコみたいで可愛いわね。


善子「!!」

善子(星空凛だ…また…)

善子(あんじゅさん、なぜかあの子にだけ優しい…)

善子(羨ましい…)

善子(…いやいや! 孤高なるあんじゅさんの気高さを脅かす邪悪な存在め!)

善子(あんなトゲも出せないチビっこが…)

善子(…私も出ないけど)


ナデナデ ゴロゴロ


善子(……いいなあ)

***


45   2018/05/11(金) 21:03:45.70

◇◇◇

希 それで? 協力するんはええけど、具体的にはどうするん?

穂乃果 それは、………梨子ちゃんお願いっ。

梨子 ええ〜?! もう、しっかりしてよ穂乃果ちゃん。部長でしょ!

穂乃果 穂乃果はお飾りで、真のリーダーは梨子ちゃんと海未ちゃんだから!

海未 自信満々に言わないでください…

果南 あははっ、なかなか面白いかもね。漫才演劇やるってことか〜。

梨子 ち、違いますっ! ほら穂乃果ちゃん、あなたのせいよ!

穂乃果 あはは、ごめんごめん。

ことり …まだ、みんな頷いてくれたわけじゃないんだね。

希 そりゃそうよ。ウチら三年生も、暇を持て余してるわけやないんやから。

果南 まあ、英玲奈と希とあんじゅは持て余してるけどね。

英玲奈 おまえもな。松浦。

あんじゅ 学年でものんびりしていると名高いものね。私たち。

希 一緒にされてえらい迷惑よ、ウチは。生徒会やってるっていうのに。

理亞 …一年生の間でも、希先輩は自由人だって噂だよ。

希 そんなあっ?!


46   2018/05/11(金) 21:04:27.44

真姫 そういえば、三年生にはあなたのお姉さんもいるでしょ。なんでこの場にいないのよ。

理亞 は? なんでいるのが当たり前になってるわけ? こんな素人集団に姉さまが加わる理由なんかないからだよ。

善子 でも自分はやるのね…

理亞 あんたなんか言ったァ?!

花陽 ちょ、ちょっとみんな! 先輩たちの前だよ!

曜 随分と元気な子が揃ってるねー、一年生は。

千歌 でも力になってくれるっていうんだから、根は優しくて良い子たちばっかりってことだよ! ね!

理亞、真姫、善子 ………………//

ことり あれ? そういえば、花丸ちゃんは?

海未 花丸には人を呼びにいってもらっていますよ。

穂乃果 私がどうしても声を掛けられなくって…花丸ちゃんが仲良しだっていうから、お願いしたの。

凛 穂乃果ちゃんが声を掛けられなかった?! どんな相手なの、それ?!

穂乃果 り、凛ちゃんの中で穂乃果どういうイメージなの…

真姫 だって強引だったもの。あんなに無茶苦茶な誘い方ってないわよ。

理亞 とか言いつつのこのこついてきてるからね。

真姫 あなただって一緒じゃないの!

理亞 私は姉さまに代わってやむなく来ただけだし!

梨子 ま、まあまあ二人とも…


47   2018/05/11(金) 21:05:21.29

ガチャ

花丸 遅くなりました。…ほら、ルビィちゃん。

ルビィ ……

穂乃果 あ! ルビィちゃん来た!

ルビィ ぴっ?!

花丸 穂乃果さん。あんまり大きな声を出すと、ルビィちゃんがびっくりしちゃうから。大丈夫だよ、ルビィちゃん。

穂乃果 あ…ごめんね。

凛 ルビィちゃんだったんだ…

善子 それなら穂乃果さんが声を掛けるのに失敗したのも…

真姫 まあ、頷けるわね…

希 あ。ルビィちゃんって、ダイヤちゃんの妹さんかな。

ルビィ は、はい…お姉ちゃんを知ってるんですか?

希 まあ、そりゃあね。おんなじクラスやし。

果南 よ、ルビィ!

ルビィ かなんちゃん。かなんちゃんも一緒なの?

果南 そんなとこだよ。よろしくね。

英玲奈 しかし、黒澤の妹も一緒にやるのか。それなら…なあ。

果南 うん…そうだね。やる理由になってくれたらいいんだけど。

希 ダイヤちゃん以外にも、三年生はクセモノ揃いやからねえ。

ルビィ お姉ちゃん…

◇◇◇


48   2018/05/11(金) 21:05:55.16

◆◆◆

『ある日、少女が森を歩いていると、小さな泣き声が聞こえてきました』

『声のするほうへ行くと、ひざを擦りむいたネコがいました』

『どうやら、木の根につまずいたようです』

『たいへん。少女は駆け寄ります』

『しかし』

『少女は手を伸ばすことができません』

『払われた感覚が、女の子の表情が、はっきりと甦ります』

『私は何度傷付いたって構わない。けれど、この手はみんなを怖がらせてしまう…』

『少女はただ傍にひざを付き、呼び掛けました。すると、』

『…手を、貸してはもらえませんか』

『ネコは言います』

『どうにも、わたしだけでは立ち上がれません』

『お願い。手をーー』

『少女ははっと息を呑み、伸ばされた手の震えを慰めるかのように』

『しっかりと握りました』

『さあ、立って。村まで一緒に行きましょう』

『ありがとう。ありがとう』

『少女が初めて聞くお礼の言葉は、とても暖かく、胸に染み込んでいきました』

◆◆◆


49   2018/05/11(金) 21:06:27.41

ちょっと…休憩します…


50   2018/05/12(土) 00:40:21.02

もう十分やすんだな
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51   2018/05/12(土) 00:40:25.39

***

千歌「…ふう」

にこ「ため息なんかついて、どーしたのよ」

千歌「あ、にこちゃん…」

にこ「しけたカオしてるわね。そんなんじゃよくないわよ」

千歌「にこちゃんって、果南さんと希さんと幼馴染みなんだよね」

にこ「そーよ。それがどうかした?」

千歌「今日は一緒に帰らないの?」

にこ「別に。毎日一緒に帰る契約してるわけでもないし。今日は一人で帰る気分なのよ」

千歌「……」

にこ「……あ。や、いいわよ。急に誰かと帰りたい気分になった」

千歌「にこちゃんは優しいし強いんだね」

にこ「は? なにがよ」

千歌「果南さんと希さんだけどこか寄って帰るかもって思うと、淋しくならない?」

にこ「ならないわねー」

千歌「なんで?」

にこ「そんなんで私たちのなにかが変わるとは思わないからよ」

にこ「…わかった。穂乃果と曜のことね」

千歌「うん。学舎では三人でいるけど、でも…帰りとか、やっぱり一緒にいづらくって」

にこ「気にしなきゃいいのよ」

千歌「どっちを?」

にこ「どっちも! いづらくたって一緒にいたいならいりゃいいし、それが嫌で一人になるんならその場にいない相手のことなんか考えない」

にこ「そんだけよ」

千歌「…あはは。チカもにこちゃんみたいに強くなりたいなあ」

にこ「なれるんじゃない。そのうちね」

***


52   2018/05/12(土) 00:41:21.63

***

穂乃果「曜ちゃんっ! もう帰れる?」

曜「穂乃果ちゃん。うん、ちょっと待ってね……オッケー!」

穂乃果「かえろーっ!」

曜「おー!」ゞ


穂乃果「準備も進んできたね〜」

曜「わくわくしちゃうよね、この雰囲気! あああ、なんだか走りたくなっちゃうなー」ウズウズ

穂乃果「う〜ん…穂乃果も! せっかくだし走ろう!」

曜「じゃあポストまで競走しよっか!」

穂乃果「競走はだめ! 曜ちゃん速すぎるから!」

曜「全速前進…」

ほのよう「「ヨーソローーーーーーッ!!」」タタタタタッ


穂乃果「はあ…はあ…っ」

曜「わーい、勝ったー!」ブイッ

穂乃果「競走じゃないって言ったじゃん! なんで本気で走るの?!」ゼエゼエ

曜「えー。せっかく走るなら本気じゃないと楽しくないよ」

穂乃果「お昼ごはん全部出てきちゃったらどうするの…うえっ」

曜「鍛えかたが足りないなー、穂乃果ちゃん」

穂乃果「体力オバケに言われたくないよ…」


53   2018/05/12(土) 00:41:54.48

曜「落ち着いた?」

穂乃果「うん! もう平気!」

曜「よーしっ、」

穂乃果「もう走らないからね?!」

曜「…ワカッテルヨ」

穂乃果(ノーキンだなあもう…)

穂乃果「…おっと、すみません…」

絵里「 」バッタリ

穂乃果「…あ」

絵里「…」ジッ

絵里「どいてくれる?」

穂乃果「は、はい」サッ

絵里「………」ジッ… プイ

絵里「 」スタスタスタ…

穂乃果「…………うーわー、びっくりしたあ…心臓止まるかと思っちゃった」ドキドキ

曜「うーん、相変わらず無表情だなー。せっかく美人なのにね」

穂乃果「美人だからこそ無表情って怖いよ…っていうか、あの人笑うことあるのかな」

曜「そりゃあるよ。たまに見るよ」

穂乃果「ほんとに?! どういうとき笑うの?!」

曜「んっとー…ああ、あれあれ。黒澤さんとこの妹さんと話してるときとか」

穂乃果「ルビィちゃん? だっけ?」


54   2018/05/12(土) 00:42:38.70

曜「そうそう。ルビィちゃんのことはだいぶ好きみたいだよ。その代わりお姉さんのほうとは仲良くないみたいだけど」

穂乃果「ふうん…仲間だからってわけじゃないんだ…」

曜「まあ、私にも別に優しくしてくれたことないしね」

穂乃果「あ! ごめん、そういうつもりじゃなくって」

曜「あはは、いいっていいって。今さら気にしないよ。穂乃果ちゃんにそんなつもりがないことくらいわかってるから!」

穂乃果「…みんな曜ちゃんみたいだったら怖くないのにな」

曜「…でも、そもそもトゲなんかほとんど見たことないでしょ?」

穂乃果「た、確かに!」ハッ

穂乃果「あっでもううん、絢瀬さんのは何回も見てる!」ブンブン

曜「絢瀬さんは、まー…ああいう人だからねー」

穂乃果「やっぱりちょびっとだけ怖いなあ…」

曜「よしよし。少しずつ慣れていってくれたらいいよ」


曜「いつか、みんなでドッチボールでもしてみたいね」

***


55   2018/05/12(土) 00:43:13.57

>< >< ><

『少女が初めて聞くお礼の言葉は、とても暖かく、胸に染み込んでいきました』


ダイヤ「…………」モクモク


ーー黒澤さん! ありがとう。

ーー明日からも、よろしく。

ーールビィちゃんも、また明日ね。

ーーダイヤ…ちゃん。


ダイヤ「…………」モクモク


『少女は今日も一人ぼっちで生きています』


ダイヤ「…本は、読む人を映すのですね」

ダイヤ「あのページが最もすれている事実が、彼女がどういう人であるのかを如実に物語っていますわ」

ダイヤ「ダイヤ、ちゃん」

ダイヤ「ふふ」

ダイヤ「棘刀式も、あながち無駄なばかりの慣習ではないのかもしれませんわね」


56   2018/05/12(土) 00:43:53.57

ガラリ


南「ダイヤさん…」

ダイヤ「あら、南さん。そうですわね、もうそろそろ稽古でしたか…」

南「もう一時間も前に終わりました」

ダイヤ「え?! …ああっ、今日は開始が早いのでしたっけ…」

南「………ハァ」

ダイヤ「すみません、南さん。今日は本当に私の不注意で、」

南「いい加減になさい!!」

ダイヤ「 」ビクッ

南「あなたは…黒澤家の長女! やがて御三家当主の一角を担う存在なんですよ!」

ダイヤ「え、ええ…わかっています。だから、」

南「またその本を読んで…」

南「本を読むのは結構。夢を見るのも結構です。でも、それならば拗ねているより先にやることをやりなさい! いつまでも皮肉な子どものままでいないで!」

ダイヤ「そ、そんな言い方……いえ、今までの私の行いが悪かったのですよね」

ダイヤ「私も棘刀式の代表として、黒澤家の長女として、きちんと務めを果たしますわ」

南「…当然です」スタスタ…


57   2018/05/12(土) 00:44:38.96

南「…ああ、それと」ピタッ

ダイヤ「はい?」

南「その本を渡しなさい。棘刀式が終わるまで預かっておきます」

ダイヤ「っ?! だ、だめです。これは人から借りているもので…」

南「没収するとは言っていません。村祭りの翌日には返します」ヒョイ

ダイヤ「そ、それでも………もう読みませんわ! 祭りの日までは棘刀式の稽古に集中します! だから、お願い…」

南「それならば、預かっていても同じでしょう」

ダイヤ「お願いです、返して…! 手元に置いておきたいの!」ガシッ

南「こら、放しなさい……あっ」ポロッ


バサッ


ダイヤ「ああっ! 希さんの本なのに…ひどい…」

南「…あなたが突然掴み掛かってきたりするからです」

南「そう軽率に手を出してはいけません。あなたは棘人なんだから…………あっ」ハッ

ダイヤ「……っ!」

ダイヤ「…」ギリ…

南「……ごめんなさい、今のは私が」

ダイヤ「 」ダッ


ガラガラッ ダダダダ…


南「ダイヤさん!」

南「…ああ。私はなんてことを…」

>< >< ><
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58   2018/05/12(土) 00:45:23.22

占占占

果南「雨だー!」

にこ「喜んでんじゃないわよ、半魚人」

果南「えー、なんでさ。気持ちいーじゃん、雨」

にこ「よかないわよ。傘で手は塞がるし洗濯物は乾かないし、いいことないわ」

果南「まーまー。カリカリすると皺になるよ」

にこ「げっ! 美容の大敵ね! いや〜、雨は気持ちいーわね〜」

果南「だよね〜」


パラパラ…

意味もなくページをめくる。

何十回、何百回と読んだ物語。

それなのに、全く別の本を手にしたように感じる。


希「本って、持ち主を映すんやなあ…」


にこ「…つか、今日も来なかったのね」

果南「…そうだね」

にこ「いい雰囲気だったんじゃないの?」

果南「と、思ったんだけどな〜」

希「…………」


59   2018/05/12(土) 00:45:54.95

ダイヤちゃんが稽古に来なかった。

昨日あんなことがあったからだろうか。

でもお話しできたし、少しだけ仲良くなれたと思ったけど。

それとこれとは別の話…か。


希「……ん?」


ページがごそりと移動する。

現れたのは、小さな栞。

栞…じゃ、ない。


60   2018/05/12(土) 00:46:44.97

希「切符…?」


『東京ユキ』


日付指定のないそれは、村から遥か遠く離れた場所へ宛てるもの。

そもそも電車に乗るまでにも何本ものバスを乗り継がなくてはならないこの村で、そうそうお目に掛かることはない。

発行日は…


希「え? …七年前?!」

にこ「は?! 言いすぎでしょ!」

果南「確かに。七歳は下に見える。十一歳だよ、十一歳」

にこ「十八歳よ!! 日々成長してるし!!」

希「あ、ごめん、なんでもなくて…」


七年前の、村祭りくらいの日だ。

そんなにも昔の切符が、どうして…


希「…………。…あ」


ザアザアと唸る雨音の中、わずかに響く水の弾ける音。

ふと顔を上げると、水溜まりを蹴飛ばしながら一心に歩く姿。


希「…ダイヤちゃん?」


にこ「この村にいて、胸なんかなんに使うのっつー話よ。誰を欲情させたってしょうがないでしょーに」ハンッ

果南「洗い物が一つ減るのは羨ましいかもね」

にこ「ブラはしてるわ!! …って、あ? 希ィ?!」

果南「希?! 傘は?!」


私は、走り出していた。

占占占


61   2018/05/12(土) 00:47:29.25

占占占

服が雨を飲み込んでいく。

そのたび重くなっていくのは、身体か、心か。

雨に濡れてなお美しいままの黒髪。

誰の真似か、空は激しく泣き続けて。

呼応するように、世界は空の泣き声で全ての音を掻き消して。


それなのに。


彼女の頬を濡らすのが、雨ではないことも。

一色の音の中に、彼女の声が溶けていることも。

私にははっきりとわかった。


一人と、一人。

初めて見る彼女の泣き顔に、掛けられる言葉なんかあるはずもなくて。

近付くことすら、できなくて。

私にできたのは、ただ、想いーーそして、決めることだけ。

占占占


62   2018/05/12(土) 00:48:12.66

◇◇◇

にこ あんたたちが好きなことすんのは構わないわよ。

にこ でも、お遊びならよそでやれ。

にこ 私の前では、許さない。


ツバサ 私が、あなたたちと? ふふ…面白い冗談ね。

ツバサ ねえ、知らないのかしら。

ツバサ 世の中、情熱だけで動かせる人間で溢れているわけじゃないのよ。


鞠莉 んー、pass しとくわ。

鞠莉 マリィもこれでいて忙しい身なのよねー。一応ホラ、理事長だから。

鞠莉 応援はしてるから、招待してよね。チャオ〜☆


絵里 は?

絵里 楽しそうでなにより。

絵里 放課後は定例会議よ。遅れずにね。


聖良 そうですか、理亞も加わったのですね。

聖良 至らないところもある妹ですが、よろしくお願いいたします。

聖良 …ふふ、ご冗談を。私まで加わったら、理亞と闘えないじゃないですか。

◇◇◇


63   2018/05/12(土) 00:48:44.84

◆◆◆

『ネコは旅の途中でした』

『この村には、いつまでいるの?』

『いつまでだって構わないのです。旅のネコですから』

『だったら、その間はここにいるといいわ』

『それは少女の優しさであり、また、欲望でもありました』

『ずっと傍にいてくれとは言いません』

『ほんの数日間だけ、隣にいてほしいと願う少女を、誰が責めることができるでしょう』

『ネコは喜んで頷き、その日から、少女は一人ではなくなりました』

『共に野菜を売り歩き、共に牛小屋を掃除し、共に木を伐り』

『共に眠りに就いては、共に起き、朝の鐘を打ちます』

『少女にとってそれは、願ってやまなかった夢のような日々でした』

『隣にあなたがいるだけで、世界はこんなにも変わるのね』

『ネコは微笑み、少女の手を取りました』

◆◆◆


64   2018/05/12(土) 00:49:18.34

***

聖良「遅くまで失礼いたしました。それでは海未、また明日」

海未「はい。暗くなってきましたので、お気を付けて」

園田「またいらしてくださいね」

聖良「近いうちに」


テクテク


聖良「…おや?」

梨子「…あ」

聖良「こんばんは」ペコ

梨子「こんばんは」ペコ

聖良「帰りですか? …よければ、途中までご一緒しませんか?」

梨子「は、はい」

聖良「暗くなってきましたからね。とは言え、顔見知りばかりのこの村で、なにが起こるとも思えませんけどね」

梨子「ふふ…そうですね」
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65   2018/05/12(土) 00:49:51.10

梨子「海未ちゃんのところ、ですか?」

聖良「そうです。遅くなったのですが、理亞の件を謝りに」

梨子「ああ……え? でも海未ちゃんは別に…」

聖良「それはそうですが、村内の揉め事なので」

梨子「丁寧ですね」

聖良「…万が一にも、理亞の立場が危うくなることを思うと。私のひと手間でそれを防げるのなら、たいしたことじゃありません」

梨子「いいお姉さんですね」

聖良「そ、そうでしょうか」//

梨子「なかなか、おてんばさんが治りませんね。理亞ちゃん」

聖良「…そう、ですね」

梨子「聖良さん?」

聖良「理亞はまだ子どもです。私が過保護にしたのもありますが、よくも悪くも周囲に影響されすぎるきらいが強い」

聖良「今回のことも、恐らく…」

梨子「…?」

海未「お〜い、聖良!」

聖良「え? 海未?」

梨子「海未ちゃん」


66   2018/05/12(土) 00:50:28.32

海未「おや、梨子も一緒でしたか」

梨子「ええ、偶然会ったからご一緒してたところよ」

聖良「どうかしましたか? 海未」

海未「ああ、そうでした。忘れ物があったので届けにきたのですよ」ハイ

聖良「それは…すみません、わざわざ。明日でもよかったのに…とは、届けてくれたのに失礼ですね。ありがとうございます」

海未「私も、少し息抜きをしたかったところなので」

聖良「お母様の傍では、なかなか肩肘が張ってしまいますもんね」

海未「はい…正直なところ」

梨子「じゃあ、海未ちゃんも一緒に歩きましょうよ」

海未「そうします。この暗い中、聖良だけ送り出したことを不安にも思っていましたので」

聖良「ふふ。海未がいればどんな悪漢も怖くありませんね」

梨子「なにも起こらないって言ったばかりじゃないですか」

聖良「そうでしたっけ?」

梨子「ふふふ」

海未「聖良と梨子も、すっかり打ち解けましたね」

梨子「聖良さん優しいから。海未ちゃんもいるし」

聖良「初めは私のほうが棘人だったかと錯覚するほどでしたけどね」

梨子「む、昔の話はいいですから!」

海未「ふふ…」


海未「…誰もが、こんな風に笑い合えるようになればよいのに」

***


67   2018/05/12(土) 00:51:01.83

占占占

南「よし。希さん、壇上へ」

希「はい」

南「ダイヤさん。トゲを」

ダイヤ「はい」


スゥ…

息を吸い、

ブンッ。

木剣を振り下ろす。


ダイヤ「……っ」


斬れこそしないものの、その打撃は確かに伝わる。

ダイヤちゃんが表情を歪める。


南「…結構です」

果南「演舞もね。綺麗に揃ってたよ」

南「そうですね。これなら本番も大丈夫でしょう」

南「今日の稽古はここまで!」


どう、とみんな一斉に壇上で寝転がる。


68   2018/05/12(土) 00:51:33.71

希「ダイヤちゃん。手…」

ダイヤ「平気ですわ。これが私の務めですから」

希「そうやけど…ごめんね」

ダイヤ「なにを謝ることがありますか…これは私と希さんに課せられた『役割』の為すこと」

ダイヤ「そこに希さんの意思はないでしょう?」

希「うん…そうやね」

ダイヤ「もう本番も近いですわ。頑張りましょうね」

希「…うん!」

占占占


69   2018/05/12(土) 00:52:43.08

◇◇◇

曜 遊びのつもりはないんです。ただ私たちは、みんなで一つのものを作り上げたいだけ。その喜びを、知りたいだけなんです。

にこ それは世間じゃ『お遊び』っていうのよ。青春ごっこなら、家に帰ってやってなさい。

梨子 今はごっこでもいいんです。矢澤先輩だって、最初はそうだったはずじゃないですか。

曜 矢澤先輩が舞台にいた頃のこと、本当には知りません。でも、観ましたよ。舞台。画面越しだって伝わりました…あなたが誰よりも本気だったこと。

梨子 もう一度、その本気を見せてほしい。今度は、私たちと一緒に。

にこ …………っ。


70   2018/05/12(土) 00:53:21.01

ツバサ 矢澤さんが陥落した…か。けれど、彼女は私たちの中でも最弱の存在…

海未 …? すみません、おっしゃっている意味がよく…

善子 ククク…そうね。そして次はあなたの番よーー綺羅ツバサ! センパイ!

海未 善子?!

ツバサ 私をどう落とそうというのかしら。あなたたちごとき矮小な存在に、私に対して切れる手札なんかないでしょう。

善子 …絢瀬絵里。

ツバサ っ?!

善子 あなたが仲間になってくれるというのなら、絢瀬センパイも必ず仲間にしてみせると約束するわ。ふふ…知ってるのよ、

海未 善子!!

善子 あっハイごめんなさい…あの、綺羅センパイが絢瀬センパイに憧れてるって聞いて。その、私たち頑張って絢瀬センパイも加わってくださるようにお願いするんで、綺羅センパイも…

ツバサ …なるほど。


71   2018/05/12(土) 00:54:00.34

ことり はいっ花陽ちゃん!

花陽 …よし、よし、よし。オッケーです! 理亞ちゃん。

理亞 はいはい…

理亞 ……はい。終わった。

ことり は〜い。これで全部だね。

鞠莉 え…もう?

ことり はいっ。溜まってたお仕事、みんな終わっちゃいました。

鞠莉 うそ…何日分だと…

花陽 花陽たち、こういうチマチマした作業そんなに嫌いじゃないから…ね。

理亞 私は別に。こんなのは時間割くなんてばからしいから、ちゃちゃっと終わらせるのが一番。

ことり うふふ…だから、こんなお仕事はことりたちに任せて、鞠莉先輩は、もっと鞠莉先輩にしかできないことに時間を使ってください。

鞠莉 wao... あはは、これじゃあ「忙しい」なんて言ってられないね…


72   2018/05/12(土) 00:54:37.24

絵里 はいはい…もう、何回来たって一緒です。高坂さん、それに希。あなたたちも大概…あれっ?

花丸 初めまして、絢瀬先輩。一年の国木田と言います。ほら、ルビィちゃんも。

ルビィ い、一年生の黒澤ルビィです…

絵里 あ、えっと…はい、なに? 生徒会に用事?

花丸 (教わった通りにやるよ、ルビィちゃん)

ルビィ (うまくいくかな…)

花丸 絢瀬先輩!

絵里 は、はい。

ルビィ ルビィたちに、力を貸してください!

絵里 は、はい?

花丸 まるたち、絢瀬先輩と一緒がいいずらっ!

ルビィ おねがいしますっ!

絵里 え、えええ……?!

絵里 (か、可愛い……)


73   2018/05/12(土) 00:55:09.24

聖良 お伝えしたはずですよ。理亞と闘えない環境に身を置くつもりはないと。わかったらお引き取りください。

真姫 ふふ…聞いた? 凛。

凛 え? うん、聞いたよ。

真姫 随分と上から物を言うんですね、聖良先輩。

聖良 はい?

真姫 まるでご自分が理亞と対等…いえ、それ以上だとおっしゃっているように聞こえますけど。

聖良 …どういう意味ですか。

真姫 理亞から学べることが、まだまだたくさんあるはずですよ。そんなことにも気付かないなんて、たいしたことないのかしら。

凛 まっ、真姫ちゃん?! 吹っ掛けすぎにゃ!

聖良 …そちらこそ、目上の相手に対して随分と言いますね。いいでしょう、そこまで言うのならば実際に見てもらったほうが早い。

真姫 その言葉を待ってたわ! さあ凛、私たちの実力を見せ付けて返り討ちにするわよ!

凛 ななな……なんのバトルパートにゃーーーーっ!!


74   2018/05/12(土) 00:55:48.88

にこ ………

ツバサ ………

鞠莉 ………

絵里 ………

聖良 ………

希 みんな、ちょろいなあ。

あんじゅ ここまで来ると、なんていうか滑稽ね。

英玲奈 …鹿角は、後輩たちに負けたのか?

聖良 負けてなどいません。ですが、確かにあの子たちには見るべき才能がある。

聖良 …それに乗ってみるのも悪くないと思っただけです。

果南 ま、なにはともあれ一緒にやってくことになったんだから。仲良くやろうね。

にこ …で、あの子は?

希 誰?

にこ 最初の最初にケンカ吹っ掛けてきたオレンジよ。発起人なんでしょ。なんでいないの。

海未 穂乃果は、最後の一人を訪ねにいきました。

曜 千歌ちゃんとね。

果南 ……あとはあの子たちしだい、か。

◇◇◇


75   2018/05/12(土) 00:56:22.18

◆◆◆

『三日が過ぎ、一週間が過ぎ、二週間が過ぎ』

『少女とネコは、いつも一緒にいました』

『働き者のネコは村のみんなに好かれ、よく打ち解けました』

『そしてなにより、そんなネコが隣にいることで、少しずつ、少しずつ、少女も受け入れられるようになってきました』

『昨日は初めて野菜が売れました』

『夕方にすれ違った老夫婦には、初めてあいさつをされました』

『嬉しい。私、まるで村の一員になれたみたい』

『ありがとう、ネコさん』

『お礼を言うことなどなにもないよ。やっと、きみの頑張りが報われたというだけのことなんだ』

『やがて、村人は少女に冷たくすることはなくなりました』

『少女は、毎日ネコの手を握って眠りに就きました』


76   2018/05/12(土) 00:56:54.87

『ある日』

『少女は村の市場へ買い物に出掛けました』

『ネコは子どもたちに旅の話を聞かせにいったので、今日は一人です』

『しかし、もう怖くありません』

『ぎこちなさはあるものの、みな、少女に手を振ります』

『今日はいい魚が獲れたんだ』

『今朝は鶏が玉子をたくさん産んでね』

『この間は野菜をありがとう、美味しかったよ』

『こんなに世界が明るいなんて、いつ以来かしら』

『足取りは軽く、跳ねる少女』

『その耳に、突然の報せが届きます』


『やあ、聞いたかい。ネコさんは、そろそろこの村を発とうというつもりだそうだよ』


77   2018/05/12(土) 00:57:26.79

『…うそ』

『うそじゃないさ。切り株に腰掛けて、自分で言ったんだ』

『ほろりーーほろりーー』

『珠のような涙が頬を伝います』

『いやよーーいやよーー』

『手からかごが離れ、パンが、りんごが、ころげます』

『ひざが震え、目がちかちかして』

『全身がさあっと冷えていきました』

『ああああああああああああああっ!』

『喉が張り裂けんばかりの泣き声』

『いけないーー』

『そう思ったときには、もう手後れでした』


『少女の全身からは、無数のトゲが生えていましたーー』

◆◆◆


78   2018/05/12(土) 00:58:05.09

***

ーー「帰り、アイス食べてこっか」

ーー「いいね! 誰か誘う?」

ーー「…あ。西木野さん、帰りアイス食べていかない?」

真姫「えっ」

真姫(アイス…)

真姫(寄り道ってしてもいいのかな…)

真姫(でも食べていきたいかも…)


西木野さん?

嫌だったかなあ。


真姫(行くって言っていいのかな…)

真姫(お情けで誘ってくれたのかも…)

真姫(でも、誘ってくれたことには違いないし…)


ごめんね、突然誘っちゃって。

また行こうね! ばいばーい。


真姫(…うん、よし。決めた)

真姫(行こう!)

真姫「行きたいわ」


真姫「…あれ?」

***


79   2018/05/12(土) 00:59:30.87

***

トボトボ…


真姫(まただめだった…)

真姫(いっつも考えすぎちゃう…)

真姫(一言、すぐに言えればいいだけなのに…)

真姫「…ハァ」

真姫「…ん?」


善子「 」コソコソ ササッ ジィ…


真姫「…」トコトコ

真姫「…ねえ、なにしてるの?」

善子「んにゃあっ?!」ビクッ

真姫「きゃっ」ビクッ

善子「び、びっくりさせないでよ!」

真姫「ごめんなさい…」

善子「なに?」

真姫「あの、なにしてるのかなって…」

善子「観察よ、観察。憧れの人をね。わかったらあっち行って」


80   2018/05/12(土) 01:00:03.63

真姫「…」

真姫「…ねえ、私もまぜて」

善子「はあ?! 嫌よ、あっち行ってってば!」シッシッ

真姫「私も遊びたいの」クイクイ

善子「遊びたいなら一人で遊んでなさいよ! もう、引っ張らないで!」

真姫「…」

善子「…なんなのよ。…あなた、棘人?」

真姫「違うわ」

善子「じゃあなおさら用無しよ。行って行って」シッシッ

真姫「ご、ごめんなさい…」シュン

真姫「…」トボトボ…


真姫「…いつか、お友達ができますように」

***


81   2018/05/12(土) 01:00:38.03

占占占

村祭り当日。

棘刀式を控えた今年のお祭りは例年以上の賑わいを見せた。

人の入りも、屋台の数も。

毎年楽しみにしているお祭りだけれど、今年は楽しいばかりの心持ちではいられない。


果南「ほーら、そろそろ行くよー」

にこ「もっかい! もっかいだけ! もっかいで取れるから!」

果南「何回やったって無駄だってば。ドへたくそなんだから」

にこ「誰がドへたくそよ!」

果南「もー。ほんとに行かなきゃ間に合わないから!」

にこ「くうううう…っ。ちょっと! それにこが目ぇ付けてんだからね! 勝手に取るんじゃないわよ!」

果南「子どもになんてこと言うのさ…お待たせ、希」

希「うん」


82   2018/05/12(土) 01:01:27.14

にこ「っていうか、別ににこたちがついてく必要なんかないでしょーが。小学生でもあるまいに」

希「それはウチもそう言ったんやけど…」

果南「だめだよ。なにがあるかわからないんだから、急な出来事で遅れちゃったら大変じゃん」

希「…って果南が聞かんのやもん」

にこ「過保護ねえ。控えテントまで送ったら、すぐ抜けるわよ。最前列行かなきゃいけないんだから」

果南「最前列なんかとっくに埋まってるよ。今さら急いだって無駄だよ」

にこ「薄情ねえ、あんた。そんなん、いくらか押し退けてでも前に行くわよ。希の晴れ舞台よ?」

希「やめてや…」

果南「別に関係者席から見ればいいからね」

にこ「あんたはね。私なんの関係者でもないから」

希「ええんちゃう? 一人増えたくらいなんてことないやろ」

にこ「そうかしら? だったらそっちのが楽ね。そうしよ」

果南「…うわ、人多いな〜。希、大丈夫? 緊張してない?」

希「あはは…してる」

にこ「ま、頑張んなさいよ。いくらか間違って構いやしないわ。私と果南が見てるから、大船に乗った気持ちでやってきなさい」

希「…うん。ありがと」

占占占


83   2018/05/12(土) 01:02:01.07

@@@

ガラリ


ルビィ「おねいちゃあ」

ダイヤ「あら、ルビィ。お祭りはいいんですの?」

ルビィ「うん。お祭りはおねいちゃあと行くものだから」

ダイヤ「…そう。今年くらい、お友達と行けばいいのに」

ルビィ「………それより、ねえ。おねいちゃあ…」

ダイヤ「なんですか?」

ルビィ「…トゲ。ちょっとだけ」

ダイヤ「…もう、仕方ありませんわね。こちらへいらっしゃい」

ルビィ「うん!」


テテテ…


ダイヤ「出しますわよ」

ダイヤ「ん………気を付けて」

ルビィ「おねいちゃあのトゲ…」ハム

ダイヤ「トゲを噛む癖、そろそろ治さなくてはだめですわよ。もう十六歳なのですから」

ルビィ「うゆ…わかってるけど」

ルビィ「…今日だけは」

ダイヤ「…そうですわね」ナデ


84   2018/05/12(土) 01:02:33.36

ルビィ「…ね、式の準備はいいの? もうすぐでしょ?」

ダイヤ「甘えてきた人がそれを言いますか?」クス

ダイヤ「そろそろ行こうと思っていたところよ」スッ パタン

ルビィ「…おねいちゃあ、最近よくなにか書いてるね」

ダイヤ「え? うん、そうね」

ルビィ「なに書いてるの?」

ダイヤ「…日記、のようなものよ。ほら、毎日色々なことがあるから」

ルビィ「そっか」

ダイヤ「さて、ルビィも迎えにきてくれたことですし、そろそろ会場のほうへ行きましょうか。本当に遅れてしまいますわ」

ルビィ「お着替え手伝う!」

ダイヤ「ふふ…ありがとう」

@@@


85   2018/05/12(土) 01:03:07.99

◆◆◆

『湧き上がる悲鳴は、すぐに森にいたネコのもとへ届きました』

『駆け付けたネコが見たのは、信じられない光景でした』

『少女が全身から無数のトゲを生やして泣き崩れ、そして、それを囲う村人たち』

『悲しみを堪えきれずに大きな声で泣き続ける少女に、手を差し伸べる者は一人もいません』

『それどころか、まるで恐ろしいバケモノを見るような目を向け、遠巻きにひそひそと言葉を交わすだけ』

『旅先で聞いた、トゲ人間の噂が脳裏によぎります』

『そうか、だから少女は今までたった一人で生きていたのか』

『私が村を離れるつもりだと、誰かから聞いたのだ』

『全てに気付いたけれど、時すでに遅く』

『村人たちは、忘れ掛けていた棘人への恐怖を思い出してしまいました』


86   2018/05/12(土) 01:03:52.27

『棘人はやっぱり棘人だ。危険な存在だ』

『子どもが怪我をしては大変だ』

『棘人のトゲを斬り落としてしまえ。そうすれば二度と生えてはこないのだから』

『口々に拡がっていく辛辣さに、ネコは耐えられず、村人たちの前に躍り出ました』

『待ってくれ、待ってくれ。そんな仕打ちはあんまりだろう』

『彼女がこれまで村のためにどれだけ頑張ってきたと思う。あなたたちも知っているだろう』

『しかし、恐怖を思い出した村人たちには届きません』

『それはわかっている。だけれど、これは少女のためでもあるんだ。トゲを斬り落としてさえくれれば、私たちも彼女に怯えることはなくなる。誰もが安心して暮らせるようになるんだ』

『やがて、村の蔵から刀が運ばれてきました』

『悪く思わないでおくれ。私たちと棘人が、手を取り合って生きていくためなんだ』

『刀が振りかざされ、そしてーー』

◆◆◆


87   2018/05/12(土) 01:04:28.11

占占占

祭囃子と太鼓の音。

儀装を纏い、舞台袖。

すでに棘刀式は開始を告げ、棘人と人の演舞が行われている。

もう間もなく、私も壇上へ登る。

腰に吊った装飾刀の柄を撫でる。

これにも儀装が施されてはいるものの、練習用の木剣とは違う。

刃は光り、危うく触れれば皮膚を破る。

それでこそ意味を持つ。


希「…ダイヤちゃん」


登壇の音が鳴り、飾り石が手のひらへと食い込んだ。

占占占


88   2018/05/12(土) 01:05:00.29

占占占

ドン、ドン、ドンドンドン。

太鼓の音は棘人と人の怒りと争いを。

祭囃子はその後の融和へ向けた祈りを。

それぞれ表しているという。

主旋律をとる太鼓の音に、わずかに紛れる祭囃子。


ザク、ザク…

静まり返った広場に、踏み鳴りだけが響く。


ギシ。

ギシ…ギシ…

刀を携え、私がダイヤちゃんの元へと辿る。

人が棘人の元へと、辿る。


89   2018/05/12(土) 01:05:32.94

刀を握る手に力が入る。

壇の中央には黒澤ダイヤ。

その周り、彼女を囲うように棘人と人が半円を為す。

一歩、また一歩。

やがて、黒澤ダイヤの正面へ。


すう…

刀を構える。

同じくして、黒澤ダイヤが両手を挙げる。

顔を隠すように拡げられた両の手。

そして、拡げられた黒澤ダイヤの両手が小刻みに震え。

ぐぐぐーー……と、手の甲から幾本もの『トゲ』が生える。


ダイヤ「希さん」

希「ダイヤちゃん」


90   2018/05/12(土) 01:06:06.61

私の役目は、そのトゲを斬り落とすこと。

仮面を砕き、皮を引き剥ぐかのように。

棘人が棘人たるための証をーー尊厳を。


スゥ…

息を吸い、


ーー息を吸い、木剣を振り下ろす。

ーーダイヤちゃんが表情を歪める。

ーーなにを謝ることがありますか。

ーーこれは私と希さんに課された『役割』の為すこと。

ーーそこに、


ーー希さんの意思はないでしょう?


そう。

そうなのだ。

この壇上で、私の行いは過去をなぞるもの。

そこに、私の意思は、ない。


希「…それこそが、ずっと続くもやもやした気持ちの正体」

ダイヤ「…希さん?」


息を吸い、刀を脇へと放り投げた。

占占占


91   2018/05/12(土) 01:06:48.74

占占占

刀は甲高く会場に水を打ち、いっときの静寂を生んで。


『ネコは再び躍り出ます』


太鼓も、囃子も、棘人も、人も。


『刀を前に、幾百もの冷蔑の前に、その身を晒して、叫びます』


その全てが口を噤む。


『そんなことせずとも、私たちは手を取り合えるはずだろう!』


ダイヤ「希…さん? なにを…」


『トゲを斬り落とすようなーー尊厳を奪うような真似をせずとも!』


希「トゲで身体が傷付いてもいい。ケンカで心が傷付いてもいい」


『ネコは振り向きます』


希「ウチは、ウチを傷付けない相手と仲良くなりたいわけやない」


『構えられた刃に背を向け、泣きじゃくる少女に向き合います』


希「ウチは、黒澤ダイヤと仲良くなりたいんや」


『ネコは無数のトゲをその身に受けて、かたく少女を抱き締めます』


希「行こう。ダイヤちゃん。ウチはウチの意思でーー」


希「貴女の手を握るよ」

占占占


92   2018/05/12(土) 01:07:47.12

◇◇◇

穂乃果 こんなところにいらしたんですね。

千歌 はあ…はあ……ずいぶん捜し回っちゃいましたよ。

ダイヤ …………

穂乃果 ダイヤ先輩。後は、あなただけなんです。

千歌 どうか、私たちに力を貸してください。

ダイヤ …みんな、あなたたちの元に集ったのですね。

穂乃果 はい。

千歌 言い出したのは穂乃果ちゃん。そこに海未ちゃんが乗って、梨子ちゃんが乗って、二年生みんなが乗って、希先輩たち三年生も、ルビィちゃんたち一年生も。

ダイヤ あなたたちは、なにを望むのですか。なにがしたくて、私たちを集めようとするのですか。

穂乃果 ……本当に、簡単なことなんです。

千歌 ……私たちの願いは、最初から一つだけ。


ダイヤ 私たちの願いは、最初からーーたった、一つだけ。

◇◇◇


93   2018/05/12(土) 01:08:29.84

占占占

七年後ーー次回の棘刀式がどうなるのかは、わからない。

今年の棘刀式は、これまでの長い村の歴史において、まったく異例な式となった。

そんな中、ただ一つだけ、わかることは。


希「ウチがめちゃくそ怒られたってことだけやん…」ゲッソリ

にこ「あはははははははっ! あははははっひひぃ〜〜〜っ…おな、お腹…っおなか痛い…」ヒィヒィ

果南「あんなめちゃくちゃなことするからだよ…」


めちゃくそ怒られた。

南さんと御三家当主三名、計四名の大人に囲まれて、もうびっくりするくらい怒られた。


ーー歴史ある儀式をなんだと思ってるの!

ーーあんな醜態を晒してほしくてあなたを選んだんじゃありませんよ!

ーーあなたは沼津ヶ村とここに住まう人々、棘人、その全てを侮辱したんだぞ!

ーーとんでもないことをしてくれたものですね。


四人もの大人が寄ってたかって、目まぐるしく、入れ替わり立ち替わり、ここぞとばかりに、日本語には卑罵語が少ないなんて嘘やんと五千回くらい思わされるほどの豊富な叱責と罵倒を浴びせてきた。


94   2018/05/12(土) 01:09:01.90

希「耳と脚なくなるかと思った…」

にこ「死の直前、希被害者はそのように語っていたーーって感じ? …ププーーーーーッ、あっはっはっはっはっは!!」バンバン

希「笑いすぎやろ…」

にこ「いやいや、笑わずにいられないわよ! カラオケ大会で愛の告白したのとはわけが違うのよ、七年に一度の儀式であんな型破りな……ぶふぉーーーっ!!!」ゲラゲラ

希「許さへんからな…覚えときよ…」

果南「ま、まあにこの反応は過剰にしても…よく思い切ったと思うよ、私も」

希「そんなん…ウチだってそう思うよ…」

果南「…でもさ、後悔してないでしょ」

希「……」

希「うん」


95   2018/05/12(土) 01:09:34.00

本来ならば、装飾刀でダイヤちゃんのトゲを斬り落とし、それを次の棘刀式まで保管することで、棘人と人との向こう七年間の融和を示すものだったのだ。

それを私は盛大に無視した。

長年受け継がれてきた刀を放り投げて、トゲだらけのダイヤちゃんの手を取って、そのまま二人で会場から脱走した。

別に村から逃げ出そうという気があったわけでもない。

というか本当に、なんの企みもなければ、なんの思惑もない。

ただ、私が私の意思で「やろう」と決めたことをやっただけ。

お互いにごてごてとした格好、すぐに走り疲れてへたり込んでいるところに村の大人たちが駆け付けてきて、私たちは天の川よろしく引き離されーー

朝までたっぷりお説教コースと相成った。


96   2018/05/12(土) 01:10:16.79

にこ「結局、ダイヤのトゲだって予定通り斬って保管すんでしょ?」

果南「だってね」

希「それを誰がやるかで大揉めになってるらしいで」

にこ「あんた立候補してきたらいいじゃない。リベンジで」

果南「無理だよ! 私が希をそそのかしたんじゃないかなんて言ってる人もいるくらいだし!」

希「そこは一応弁解しておいたんやけど、あんまり意味なさそうやったなあ…」

にこ「しばらくはやりづらくなるわね〜」

希「ごめんな、果南」

果南「まー、別にいいけどさ。希の度胸のお釣りと思えばね」

希「えへへ…ありがとさん」

にこ「相変わらず、希に甘いわねえ」

希「あ」

希「ウチ、ダイヤちゃんとこ寄ってくから」

果南「うん。行ってらっしゃい」

にこ「昨日の今日で、よくまた黒澤邸に入ろうなんて思えるわね…いってら」

希「ほな、また明日ね」

占占占


97   2018/05/12(土) 01:10:59.66

占占占

黒澤邸の門扉をくぐり、母屋までの道を行く。

確かにしこたま怒られたけれど、その場所は紛れもなくこの黒澤邸だったけれど、実はそこまで怯えてもいない。

だって、


南『はあ……はあ……』

園田『…これくらいにしておきましょう。よく伝わったでしょうから…』

希『 』(← !DEAD!)

南『それじゃ私たちは、先に失礼しますね…よかったら泊めてあげて』フラフラ

黒澤『ええ。離れを使わせます。お休みなさい、皆様』


黒澤『聞こえていますか。今日は泊まっておゆきなさいな』

希『は………はい………』

黒澤『希さん』

希『はい………』

黒澤『…ありがとうございました』


その言葉で、私の中に後悔などわずかにも残らなかったから。

占占占


98   2018/05/12(土) 01:11:33.29

占占占

トントントン、と気持ちよく響く廊下を進む。

突き当たりの、ダイヤちゃんの部屋。

コンコン。


希「ダイヤちゃ〜ん」


返事がない。


希「あれ? ダイヤちゃん?」

希「うーん…」

希「失礼しまー…す」


不躾を承知で、戸を引く。

けれど、うたた寝…ということもなく、部屋は空っぽだった。

来るって伝えておいたんだけどな。

出掛けているとも言われなかったし。


希「……ん、あれ…」


99   2018/05/12(土) 01:12:09.52

更なる不躾を承知で、部屋に踏み入る。

机に置かれた本とノート。

本は、私の『棘人とネコ』。

そもそも今日は、とりかえっこしていたこれを再び交換するために来たのだ。

私も鞄から『棘人とネコ』を取り出し、そっと机に置く。

代わりに、ノートを手に取る。


『みんなで叶える物語』


そう銘打たれている。


希「…ごめん」


ここまで来たら不躾ついでと、ノートをめくる。

そこには、年齢も性格も違う23人の少女たちが手を取り合い、大きな一つのことを成し遂げるーー

そんな物語が綴られていた。


100   2018/05/12(土) 01:12:42.22

少女たちは目標を掲げ、仲間を集め、そして力を合わせる。

言ってしまえばありふれたその物語は、ダイヤちゃんが書いたのだろうか。

…問うまでもなく、そうだろう。

なぜなら、その23人の少女は、私とダイヤちゃんを含めたこの村の住人。

私たちが、全く違う世界で、全く違う出会い方をして。

そして、全く違う道を歩んでいく物語。


希「…ダイヤちゃん」


これはダイヤちゃんの願い。

そして、私たちみんなの願い。


101   2018/05/12(土) 01:13:28.66

そこには、なにもない。

棘人が人を。

人が棘人を。

棘人が棘人を。

人が人を。

恐れ、嫌い、憎み、侮り、見下し、蔑み、嗤い、貶し、恨み、妬み。

そんな確執が、一つもない。


希「きっと…きっと、こんな世界もあったはずよね」


『あなたたちは、なにを望むのですか。なにがしたくて、私たちを集めようとするのですか』

『……本当に、簡単なことなんです』

『……私たちの願いは、最初から一つだけ』

『私たちの願いは、最初からーーたった、一つだけ』


『みんなが手を取り合って、笑い合う。そんな世界に生きたかったーーただ、それだけです。 黒澤ダイヤ』



終わり


102   2018/05/12(土) 01:14:27.01

スレタイからもわかるよう、乃木坂46の『サヨナラの意味』という曲のPVを元にしたものです。
というか、ほぼまんまです。


105   2018/05/12(土) 10:42:22.73

>>29

なーちゃんとは乃木坂のメンバーですか?
すみません、実はこの曲しか知らないくらいのものでして…


106   2018/05/12(土) 10:43:02.34

>>31

耳が痛いです。
面影は残しつつ…としたつもりではあるのですが、活かしきれませんでしたね…


引用元:http://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1526038613/